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東京国立博物館「国宝、鳥獣戯画のすべて」をおすすめする3つの理由

  • 2021年3月11日
  • 2021年3月13日
  • 展覧会
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上野の東京国立博物館で「鳥獣戯画」の特別展が開催されます。この展覧会、実は昨年の7月に開催する予定でしたが、新型コロナウィルスの影響で1年延期となっていたものです。

オリンピック・パラリンピックで多くの外国人が訪れることを想定して、日本が誇る超一流の博物館が、超一級の展覧会を仕掛けてきたということで、開催前から大きな話題となっています。

今年の展覧会の最大の目玉とされる鳥獣戯画展。その見どころを3つの視点にしぼって解説していきます。

1. 国宝の中で極めて重要な作品

鳥獣戯画とはどのような作品か?

「鳥獣戯画(甲巻・部分)」出典:高山寺HP

まず初めに鳥獣戯画がどのような作品か簡単に説明します。鳥獣戯画は正式名称を「超獣人物戯画」といい、約800年前の平安時代の終わりから鎌倉時代のはじめにかけて描かれた絵巻で、作者は不明(いくつかの説があります)と謎の多い作品です。

描かれているのはウサギやカエルなど擬人化された動物たちで、個性的なそれぞれのキャラクターが自由闊達な筆さばきでユーモラスに描かれています。

国民的人気の鳥獣戯画

鳥獣戯画は絵巻の形を取っており、源氏物語絵巻、信貴山縁起絵巻、伴大納言絵巻と並ぶ日本4大絵巻の一つで、もちろん国宝です。1951年に現在の国宝を制定する文化財保護法が施行されましたが、鳥獣戯画は比較的早い段階(1952年)に国宝に指定されています。

また、数ある国宝の中でも抜群の知名度と人気を誇る鳥獣戯画。一番有名な甲巻のウサギとカエルが相撲をとるシーンはあまりにも有名でステーショナリーなど様々なグッズに使われています。

2015年に東京国立博物館で開催された鳥獣戯画展では36日間の会期中に約24万人が訪れ、多い時で6時間待ちというニュースを耳にした方も多いのではないでしょうか。鳥獣戯画は間違いなく国民的人気の作品なのです。

作者不明の謎多き作品

このような人気を誇る鳥獣戯画ですが、意外にも詳細は謎に満ちています。まず、制作年からして不明です。甲・乙・丙・丁の4巻のうち甲・乙巻は平安時代、丙巻は平安〜鎌倉時代、丁巻は鎌倉時代という大まかな時期はわかっていますが、詳細は特定されていません。

また、作者についても諸説ありますが、不明のままです。以前は鳥羽絵の創始者で天台宗の僧侶、鳥羽僧正覚猷(とばそうじょうかくゆう)が有力視されていましたが、現在ではその説は否定されつつあり、宮廷の絵仏師か寺院に所属する絵仏師が描いたとする説が有力です。

このように制作年も作者も、さらには依頼者も制作意図もわからないという鳥獣戯画ですが、逆にいうとこれほど分からないことだらけの国宝というのも珍しいといえます。

2. 4巻同時に公開されるのは初!

全巻を一気に見られる、またとないチャンス

「鳥獣戯画(甲巻・第1紙〜第4紙前半)」出展:Wikipedia

今回、東京国立博物館で開催される特別展「鳥獣戯画のすべて」では前代未聞の試みがされます。なんと甲・乙・丙・丁の全4巻を一挙に全場面公開するというのです。

2014年から16年にかけて京都・東京・福岡を巡回した鳥獣戯画展も記憶に新しいところではありますが、その時は4巻同時展示とはいいつつも長い絵巻の一部しか展示していません。なので4巻全場面一挙公開というのは史上初めてのことなのです。

異なる絵描きによって描かれたとされる鳥獣戯画。全4巻全てが同時に展示されるので、どこからどこまでが同一絵師で、どこからどこまでが別の絵師か筆遣いの違いを鑑賞するのも楽しみです。

動く歩道でアニメーションのように鑑賞

「鳥獣戯画展 動く歩道のイメージ画像」出展:東京国立博物館

展覧会では初めての試みがもう一つあります。それは動く歩道に乗って鑑賞できるというもの。鳥獣戯画の中で最も有名な甲巻のウサギとカエルが相撲をとるシーン。その全長12メートルの距離を動く歩道に乗って動きながら見られるのです。

でもじっくり見たいと思った方には朗報です。歩道の速度はアリの歩く速さ程度ということなので、じっくり間近に(しかも恐らく他人の頭を気にすることなく)鑑賞できるチャンスとなっています。

新事実で国宝の謎に迫る

今回の展覧会は鳥獣戯画の新しい研究成果を披露する場でもあります。2009年から約4年に渡って行われた全面修理、いわゆる「平成の修理」でわかった事実をもとに鑑賞できます。

特に丙巻はもともと1枚の紙の裏表に描かれていたものを「相剥(あいへ)ぎ」という技法で薄く2枚に剥がし、1巻に仕立て直したことがわかっています。丙巻の第19紙に第2紙の烏帽子の黒い墨が裏移りしているからです。

また、甲巻前半は上質の杉原紙(すいばらがみ)だったのが後半は「漉(す)き返し」という再生紙に変化していることもわかりました。

今回の修理では甲巻の一部で順番が入れ替わっていた箇所が判明しましたが、あえて順番は直さずに現状維持修理が行われたといいます。長い年月のうちに行われた先人の「ストーリーがあるかのように仕立てた」思いを尊重した結果なのだといいます。

3. 漫画の祖先!白描画の最高峰

漫画の先祖

「鳥獣戯画(甲巻・部分)」出展:高山寺HP

鳥獣戯画は動物などウサギやカエル、猿などを擬人化して描いており、そのユーモラスな描写は戯画的で「日本最古の漫画」と称されています。現代の漫画も鳥獣戯画のように墨の白黒で表され、技法としても線のみで描くという点で共通しています。

また、鳥獣戯画は絵巻という形式のため展開としては、右から左に時間と空間が流れます。現代の漫画は冊子の形状で、しかもコマ割りで区切られているので、上から下への動線が設定されていますが、基本は絵巻と同様、右から左へ読み進めていきます。

鳥獣戯画が作られてから数百年。江戸、明治、大正、昭和、平成と続く漫画の歴史ですが、令和になってもそのスタイルは受け継がれています。

白描画という一発勝負の緊張感

鳥獣戯画の特徴の一つが線のみで描く白描画という技法です。白描画では色は塗らずに墨線だけで描きます。同じようなスタイルに水墨画がありますが、水墨画は線と同時に滲みやぼかしで面を埋めるのに対して、白描画はあくまで線のみで対象を生き生きと描いていきます。

もともと白描画は中国の漢時代から描かれるようになり、日本にも平安時代の後半から仏像を描く際に用いられるようになりました。平安時代、紙(料紙)は大変貴重なものだったので、むやみに扱えません。そうなると一枚一枚の絵は失敗の効かない緊張感のあるものとなります。

それに加えて鳥獣戯画には下描きのためのアウトラインがありません。訂正の効かない一発勝負の緊張感の中、これだけ多様な動物を伸びやかな筆致で描くのは並大抵のことではありません。ウサギとカエル、猿が描かれた甲巻の前半部分が特に優れており必見です。

愛嬌のあるキャラクター

「鳥獣戯画のキャラクター」画像出展:Wikipedia

鳥獣戯画がここまで人気になった理由は他でもく、動物たちのユーモラスな姿にあります。おどけたようなカエルの姿、走り回るウサギの伸びやかな足運び。逃げ惑う猿の愛嬌のある立ち居振る舞いが見るものを魅了します。

表情豊かな動物たちを見ていると個々の場面で動物たちの発する声が聞こえてくるようです。余白に効果音や吹き出しを入れれば現代の漫画そのものです。皆さんも思い思いのセリフを想像して自分なりの鳥獣戯画を完成させてみるのも良いかもしれません。

まとめ

鳥獣戯画は約800年前に描かれた国民的に人気の絵巻ですが、制作年も作者も来歴もはっきりとしない謎の多い作品です。

今回の特別展では甲・乙・丙・丁の全4巻のすべてのシーンを一堂に展示する前代未聞の試みがなされ、鑑賞方法としても動く歩道に乗るという絵巻の鑑賞スタイルで見ることができます。平成の修理で明らかになった新事実にも注目が集まります。

漫画の祖先である鳥獣戯画。その卓越した筆さばきとユーモラスなキャラクターはは心が躍ります。日本カルチャーの先駆けとなった鳥獣戯画を理解することで日本の文化の奥深さをより感じることができるでしょう。


特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」
会期:2021年4月13日(火)~5月30日(日)
場所:東京国立博物館(平成館)
料金:一般2,000円(オンラインによる事前予約制)
公式HPはこちら

鳥獣戯画についてさらに知りたい方はこちらへ


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