日本の四大絵巻とは「源氏物語絵巻」「伴大納言絵巻」「信貴山縁起」「鳥獣人物戯画」の4つを指し、いずれも平安時代末の作と考えられています。それでは、それぞれの絵巻の特徴を以下に記したいと思います。
「源氏物語絵巻」
「源氏物語絵巻」は院政期の美意識が如何なく発揮された絵巻で、物語絵巻の代表格とされます。構成としては源氏物語54帖の各段の中から3つないし4つの場面を選んで描かれており、制作当初は10巻から12巻であったそうです。いずれの場面も登場人物たちの心理が巧みに描写されており、その表現方法は以下のとおりとなっています。
「作り絵」の技法
作り絵とは下描きの上から彩色し、その上からさらに輪郭線を描く日本画の技法。
「吹抜屋台」の建築
天井を取り払った建築構造で俯瞰的な構図とすることで登場人物の様子が分かります。
「引目鉤鼻」の顔
引目鉤鼻とは貴族の男女に用いられた容姿表現で、黒髪に細面、細長く引かれた目に鉤鼻の類型的な表情が特徴です。
「女房たちの存在」
女房たちの存在が鑑賞者たちの視線を誘導し、人物の配置や仕草が絵巻をよりドラマチックにしています。
「伴大納言絵巻」
作者は院政期に絵所預(えどころあずかり)として活躍した常盤光長とされ、当初は1巻でしたが、現在は3巻になっています。内容は応天門放火にまつわる伴大納言の失脚事件で、絵画様式としては男絵系(線描を主体としたモノクロ又は軽い色彩の絵)を代表する絵巻です。
迫真的な炎の表現や異時同図の構成、霞を用いた場面展開や横長のダイナミックな構図など現代のアニメーションに通じる要素がふんだんに盛り込まれています。
「信貴山縁起絵巻」
奈良の信貴山にある朝護孫子寺(ちょうごそんしじ)の僧、命蓮にまつわる説話を絵画化したもので「山崎長者の巻」「延喜加持の巻」「尼公の巻」の3巻からなります。
画面はアニメーションのように次々と場面が変わり、遠近や上下の視点移動など物語性が際立っています。また、伸びやかな筆致で描かれる田園や庶民の生活風景なども特徴として挙げられます。
「鳥獣人物戯画」
京都の高山寺に伝わる「鳥獣人物戯画」は鳥羽僧正覚猷(かくゆう)の作とされる絵巻で、甲・乙・丙・丁の4巻からなります。擬人化・戯画化された様々な動物たちがユーモラスに描かれる様子から漫画のルーツとされ現代でも非常に人気の高い絵巻です。
参考文献
「美術史ハンドブック」辻惟雄・泉武夫 編 新書館