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伊藤若冲のユーモラスな水墨画に注目。

絢爛豪華な花鳥画やエキセントリックな造形美で知られる伊藤若冲だが、意外にも多くの水墨画を残している。しかもあまり知られていないことだが、その中にはウィットに富んだものが多い。そんな若冲の作品からいくつかをご紹介したい。

「竹図襖絵」鹿苑寺大書院障壁画

伊藤若冲「竹図襖絵」鹿苑寺大書院障壁画

鹿苑寺大書院障壁画は若冲水墨画の代表作で「動植綵絵」と並ぶ畢生の大作である。障壁画制作は若冲が44歳頃に舞い込んだ仕事であるが、実はこの時、若冲は「動植綵絵」を制作し始めており、一方で着彩画、もう一方で水墨画を制作していたことになる。このどちらも見事にこなすところに若冲の凄さがある。

「竹図襖絵」では竹がくねくねと踊るような姿で描かれており、若冲の茶目っ気が発揮された作品といえる。上に引かれた墨線は竹の成長を感じさせる勢いがあり、余白をたっぷりと取った構図にも若冲の余裕の心意気が感じられる。筆跡を見れば若冲が短時間でこれを描いたのが分かるし、竹や葉の表現からは本来の水墨画が持つ即興性も垣間見える。

「三十六歌仙図屏風」

伊藤若冲「三十六歌仙図屏風」

若冲の中でも一際、戯画的な要素の強い作品である。俳画の「遊び歌仙図」を下敷きに尾形光琳の「歌仙図」をパロディー化した作品ともいわれる。柿本人麻呂や小野小町、紀貫之など名だたる名歌人がお手玉やヨーヨーで遊んでおり、ユーモラスな姿に思わず笑みがこぼれる。若冲の童心が表れた天真爛漫な作品といえる。

若冲はこのような純真さを生涯持っていたようである。ある時、市場で鳥が売られているのを不憫に思い、雀を十数羽買って帰り、それらを全て庭に放したという逸話が残っている。生きとし生けるものに慈悲の心を持って対象を見つめた若冲ならではのエピソードといえる。

「果蔬涅槃図」

伊藤若冲「果蔬涅槃図」

天真爛漫でユーモラスな若冲の最高到達点がこちらの作品である。出てくるのは野菜ばかり。蕪、瓢箪、南瓜や茄子などが画面いっぱいに描かれている。そして中央に鎮座するのが大根と、何ともウィットに富んでいる。しかし、これは仏教の一大事をパロディー化したものなのだ。

釈迦が入滅する際の情景である釈迦涅槃図を描いたものなのだが、それを若冲はオール野菜というキャストで描いている。青物問屋に生まれた若冲ならではのネタであるが、それ以上に相国寺の住職とのつながりからも分かる通り、仏教に精通した若冲ならではのモチーフ選びといえる。

「草木国土悉皆成仏」という仏教の教えでは、草木や土や石などの感情を持たないものでも等しく成仏できることを意味するが、それを文字通り、ならぬ絵で示したのが若冲の「果蔬涅槃図」である。お釈迦様に見立てた大根の周りで悲しみに暮れる野菜たち。若冲の純真爛漫な童心が感じれる作品である。


若冲は「群鶏図」や「動植綵絵」など絢爛豪華な作品ばかりがイメージされるが、実は多くの水墨画を残しており、それらは若冲ならではのウィットに富んだものが多い。それは若冲の純真爛漫な子供心から来ているといえる。

参考文献「別冊太陽 江戸絵画入門」

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