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若冲「鳥獣花木図屏風」の魅力とは?

伊藤若冲「鳥獣花木図屏風」

伊藤若冲(1716-1800年)は江戸時代中期に活躍した絵師です。極彩色で細密に描かれた「動植綵絵」や、たらしこみを使った濃淡で描かれた水墨画など多彩な面を持っており正に異色、奇想と呼ぶに相応しい絵師です。そんな若冲の作品の中でも一際、異彩を放っているのがこの「鳥獣花木図屏風」で、画面に無数の枡目(ますめ)を描いて表現された作品は日本美術史の中でも異色中の異色。そんな「鳥獣花木図屏風」とは一体どんな作品なのでしょうか。

枡目(ますめ)描きとは?

伊藤若冲「鳥獣花木図屏風(部分)」

まず第一に気になるのがその描き方です。画面全体が四角い枠で仕切られ、その中は規則正しく塗り潰されています。この表現は「桝目(ますめ)描き」と呼ばれ、約1cmの升目を無数描き、その中を同色の濃淡か別色の2色を使って塗っていくというものです。規則正しく並べられた桝目はモザイクのようであり、現代のデジタルの世界にも通じるものがあります。

「鳥獣花木図屏風」には桝目が全部で8万6000個描かれており、それより一回り小さい静岡県立美術館蔵の「樹花鳥獣図屏風」には11万6000個以上もの桝目が確認されています。その途方もない数の桝目にまずは圧倒されます。

どんな動物が描かれている?

「鳥獣花木図屏風」は屏風が二つに分かれる、いわゆる一双屏風という形体となっています。右隻には大小様々な動物が描かれ、左隻には南国や想像上の鳥が描かれています。
右隻の動物には、ニホンザル、海馬、トラ、ウサギ、獏、ブタまたはメスイノシシ、ムササビ、アシカ、ツキノワグマ、イノシシ、唐獅子、ヤマアラシ、白象、水犀、ヒョウ、リス、ネズミ、麒麟、テナガザル、ラクダ、駮またはヒツジ、スイギュウ、オランウータン、イタチ、ラッコ、カワウソ、ロバ、シカ、チン?が描かれているとされ、総勢29体にのぼります。

左隻の鳥はもっと凄いです。シラサギ、カササギ、マガモ、ガチョウ、ニワトリ、インコの一種、オオホンセイインコ、インコの一種、オシドリ、ヒクイドリ、ヒヨドリ、ウズラ、ハッカン、ヤイロチョウ、サトウチョウ、カナリヤ、クジャク、シロオシドリ、ハッカチョウ、サイチョウ?、ブンチョウ、ソウシチョウ、サンジャク、チャボ、鳳凰、カイナンケイかもしくはインコの一種、キセキレイ、ライチョウ、ヤツガシラ、コウラウン、キジバト、ギンバト、コウライウグイス、キンケイ、キジ、シマヒヨドリ、キュウカンチョウ、バリケン、バン、シチメンチョウ、キバタン、ショウジョウインコ、アカショウビン、アオゲラ、タンチョウヅルと45にもなります。
どちらの屏風にも当時の日本にはいなかった動物が多数含まれており、異国の世界が広がっていることが分かります。

異国趣味、楽園への憧れが詰まった作品

若冲が生きた時代は外国に意識が向いていた時代とされ「鳥獣花木図屏風」には異国趣味や楽園への憧憬が表れています。若冲の友人に木村蒹葭堂という文人がおり、彼の没後刊行された「蒹葭堂雑録」にはヤマアラシが描かれているなど異国の動物たちとの接点は多数確認されているのです。

また、蒹葭堂の交友関係の一人、石川大浪は「史的年代記」の挿図を模写していて、その中に「天地開闢之図」があります。これは天地創造を描いたもので、若冲の「鳥獣花木図屏風」にもアダムとイヴの楽園の影響が指摘されています。

江戸時代の異国への憧れや楽園思想などを総合すると「鳥獣花木図屏風」は若冲の夢見た楽園といえるのではないでしょうか。


伊藤若冲「白象群獣図」

若冲の桝目描きの作品は「鳥獣花木図屏風」の他、前述の「樹花鳥獣図屏風」と「白象群獣図」の3点しか残っていません。「白象群獣図」のモノクロームの世界とは異なり「鳥獣花木図屏風」はカラフルな彩色が施されており、動物たちの生き生きとした様が広がっています。若冲が生涯テーマとした仏教の「草木国土悉皆成仏」である生きとし生けるもの全てが成仏するという夢の世界が見事に表現された作品といえます。


【参考文献】
別冊太陽227 若冲百図 (別冊太陽 日本のこころ 227)
※動物、鳥の特定には「別冊太陽 若冲百図」内、山口真理子「伊藤若冲の桝目描き鳥獣図屏風考察−異国趣味と博物学の観点から−」を転載)
もっと知りたい伊藤若冲―生涯と作品 改訂版 (アート・ビギナーズ・コレクション)
伊藤若冲作品集

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