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「鳥獣戯画」はなぜこれほど愛されるのか?4つの理由で解説します

「鳥獣戯画(甲巻 部分)」出典:Wikipedia

「鳥獣戯画」は日本ではトップクラスの知名度と人気度を誇り、日本美術の至宝といっても過言ではありません。ひとたび展覧会が開かれれば長蛇の列ができ、メディアやSNSでも話題となります。

そのような人気を誇る「鳥獣戯画」ですが、その詳細は意外と謎に包まれています。まず作者からして不明です。またどのような経緯で制作されたのか、いつ頃描かれたのかなど、驚くほど分からないことが多いのです。

2021年には東京国立博物館で大規模な展覧会が開催されるなど、その人気は衰えることを知りません。今回はそんな鳥獣戯画がなぜ人々を魅了するのか、その理由を4つのポイントに絞って解説していきます。

結論

「鳥獣戯画」がなぜこれほど人気があって貴重な作品なのかというと、人々から愛される国宝だからです。また、巧みな筆遣いと愛嬌のある親しみやすいキャラクター、そして漫画やアニメのルーツとして日本文化の発展に欠かすことのできない存在となっているからです。また、日本美術特有の美意識を併せ持つ点も理由として挙げられます。

鳥獣戯画とは?

それではそもそも「鳥獣戯画」とはどのような作品なのでしょうか。その概要を見ていくことにしましょう。「鳥獣戯画」正確には「鳥獣人物戯画」は平安時代の終わりから鎌倉時代の初めにかけて描かれた絵巻物で、作者については以前は鳥羽僧正覚猷(とばそうじょうかくゆう)とされてきましたが、近年は宮廷や寺院に所属する絵仏師が描いたとする説が有力となっています。

また、作品は「甲・乙・丙・丁」の4巻構成となっており、4巻全てを合わせると44mと長大になりますが、描かれている内容も筆のタッチも異なるという謎に包まれた絵巻です。

近年の研究では、丙巻はもともと裏表に描かれていたものが剥がされ、1巻に仕立て直されたことが判明しています。また、甲巻の一部では順番が入れ替わっていたことも分かっています。

このように「鳥獣戯画」は作られてから800年以上経った今も新しい事実が判明するという謎に包まれた作品なのです。

1. 国宝に指定

それではここからは具体的になぜ「鳥獣戯画」がここまで人々に愛されるのか、その理由を解説していきます。

その理由の一つは国宝だからです。国宝の中でも抜群の知名度と人気度を誇ります。現在、国内において国宝に指定されて文化財は全部で1125件あります。その内、建造物が228件で美術工芸品は897件となっています。

さらに美術工芸品を絵画に限定してみると162件となり「鳥獣戯画」はそのうちの一点ということになります。「鳥獣戯画」が選ばれし作品だということが分かると思います。

早くから国宝に指定

国宝を定める法律は文化財保護法といい1950(昭和25)年に制定されました。「鳥獣戯画」は国宝に指定されるのも早く、法律の施行後2年経った1952年に国宝に指定されています。この早さは多くの人が目にしたことのある俵屋宗達の「風神雷神図屏風」や「源氏物語絵巻」と同じです。

2. 自由闊達な筆さばき

「鳥獣戯画(甲巻 部分)」出典:Wikipedia

「鳥獣戯画」の描き方は白描画と呼ばれるスタイルで、墨線で輪郭線を描いた白黒の絵画です。色彩もなければ墨の使用も最小限に抑えられています。

白描画のルーツは中国の漢時代にさかのぼり、日本では平安時代の後半から仏像を描く際に用いられるようになりました。平安時代の紙(料紙)は大変貴重なもので、和紙に直接描くため失敗が許されません。当然のように一発勝負となり、その緊張感が絵師の力量を高めたのでしょう。

そのような緊張感の中でそれぞれの墨線を引いていくのですが「鳥獣戯画」の筆線にはよどみがなく、自由闊達で伸び伸びとしています。また、筆のかすれやにじみを巧みにコントロールして描く様からは熟練の技が感じられます。

3. 愛されるキャラクター

「鳥獣戯画 ウサギとカエルと猿が登場するシーン(甲巻)」出典:Wikipedia

2つ目の理由は、登場する動物や人物たちの個性がはっきりしている点です。それぞれが唯一無二の存在として描かれており、いわゆるキャラが立っている状態です。

「鳥獣戯画」の中で、最も有名な甲巻のウサギとカエルが相撲を取るシーンでは、カエルがウサギを投げ飛ばし「どうだ!」と言わんばかりの姿で描かれています。

投げ飛ばされたウサギも体の柔軟性を活かして受け身をとっているのでしょうか、最後の抵抗を示しています。周りではやし立てるカエルたちも陽気に振る舞う姿が印象的です。このように一つの場面だけを切り取ってみてもそれぞれに個性的な動物たちが自由闊達に動き回る様子が見てとれます。

同じく甲巻のウサギとカエルと猿が出てくるシーンでも、真剣に追いかけるウサギとそれに指示を与えるカエル、そして「捕まえられるものなら、捕まえてみろ」といったおどけた態度をとる猿が登場し、場面全体が穏やかな雰囲気に包まれています。

このように「鳥獣戯画」に登場する動物たちはユーモラスで愛嬌があり多くの人々から愛されるキャラクターとなっているのです。

4. 漫画・アニメのルーツ

3つ目の理由は「鳥獣戯画」が漫画・アニメのルーツとなっているためです。漫画は日本が誇るカルチャーの一つで、世界でも日本の漫画が翻訳され多くの人々に読まれています。アニメーションも世界の国々で放映されています。そのような日本アニメ(ジャパニメーション)のルーツともいえるのが「鳥獣戯画」なのです。

戯画的で漫画のルーツ

鳥獣戯画に登場するウサギやカエル、猿などの動物たちは擬人化されていて、そのユーモラスな描写は戯画的です。それゆえ「鳥獣戯画」は「日本最古の漫画」と称されます。現代の漫画も鳥獣戯画のように墨の白黒で表され、技法としても線のみで描くという点で共通しています。

絵巻物がアニメーションのルーツ

「鳥獣戯画 絵巻物」出典:京都便利堂

「鳥獣戯画」の絵画形式を絵巻物といいます。絵巻物とは和紙や絹を横につないで長大な画面を作り、そこに人物や風景を描き入れて物語や情景を描く技法をいいます。絵巻は絵面とそれを説明する詞書で構成されるものが多いのですが「鳥獣戯画」は絵面のみで成り立っています。

また、絵巻物の特徴の一つに右から左に物語が進んでいくという点が挙げられ、時間の経過も右から左に流れていくことになります。鑑賞者は右から左に巻物を巻いて鑑賞していきますが、絵巻物には各シーンは厳密には区分けされていません。鑑賞者は各場面を自らのペースで巻きながら鑑賞していくことになります。

アニメーションも物語を持ち、時間の流れも一方向に進んでいくという点で共通します。「鳥獣戯画」も戯画としての物語が進行し見るものを魅了するという意味で現代のエンターテインメントとしてのアニメーションに通ずるものがあります。

5. 日本の美意識

「鳥獣戯画」の特徴の最後は日本の美意識についてです。「鳥獣戯画」には日本的な美的感覚が随所に表れていて、このような美意識は日本特有のものだと考えられます。

ミケランジェロ「最後の審判」と比べてみる

ミケランジェロ「最後の審判(部分)」出典:Wikipedia

世界の名画と比べてみると「鳥獣戯画」の特質が分かります。それはそのまま日本美術の特徴をよく表しています。西洋美術の名画として名高いルネサンスの巨匠ミケランジェロが描いた「最後の審判」はキリスト教カトリックのシンボルであると同時にキリスト教をベースとする西洋美術の特徴を示す格好の材料なので「最後の審判」と「鳥獣戯画」を比べてみましょう。

まず、「最後の審判」ではイエス・キリストを中心に様々な人々が登場します。描かれているのはこの世の終わりに最終審判を受ける人々の様子で、画面左側は天国に昇る人々、画面右側は地獄に落ちる人々です。イエス・キリストをはじめ聖母マリア、聖人、審判を受ける人々とカラフルでダイナミックな情景が広がります。人物は立体感を持ち、目の前で実際に最後の審判が行われているかのような感覚の絵です。

一方、「鳥獣戯画」はそれとは全く異なる要素で描かれています。画面は墨一色のモノクロの世界で、登場するのは主に擬人化された動物たちです。立体感に乏しく平面的で奥行きが感じられず、写実的な要素はほとんどありません。

「鳥獣戯画(甲巻 部分)」出典:Wikipedia

このように両作品とも西洋と日本を代表する作品で抜群の知名度と存在価値を誇る絵ですが、その特徴は全くといっていいほど異なります。恐らく日本美術を目にしたことのない外国人が初めて「鳥獣戯画」を見たら、間違いなく下描きか草稿段階のものだと考えるでしょう。「鳥獣戯画」に代表される日本美術には西洋の価値観からすると完成品とは程遠い独自の美意識が広がっているのです。

不要なものを削ぎ落とす日本の美意識

ではそのようなモノクロで平面的、余白の多い絵がなぜ国宝として評価されているのでしょうか。実際、日本人の感覚ではこれを下描きだと思う人は少なく、立派な作品として鑑賞することができます。そこには日本美術を読み解く際に鍵となる「不要なものを削ぎ落とす日本の美意識」が表れています。

まず色彩です。墨線のみで描かれるモノクロの世界が広がりますが、色彩がなくても十分に擬人化された動物たちの姿形からその世界が伝わってきます。むしろ色彩がないからこそ、動物たちの表情や仕草に目が行くのです。また、余白をたっぷり取った構図によって余計なものが目に入らず鑑賞者は動物たちが繰り広げる世界に没頭できるのです。

「龍安寺 方丈庭園(石庭)」出典:Wikipedia

西洋は足し算の文化、日本は引き算の文化と言われますが、「鳥獣戯画」では日本の美術に特有な要素である、不必要なモチーフを削ぎ落とし、本質的に必要不可欠なもののみを残すという特徴があります。千利休の侘茶、松尾芭蕉の俳句、龍安寺の石庭などは余計なものを削ぎ落とし本質的なものの創出を目指した結果です。日本文化の真髄のようなものが「鳥獣戯画」にはあります。

来歴不明という歴史

「鳥獣戯画」は描いた作者も分からなければ、誰が命じて作らせたのか、そしてどのような流れで現在のような形になったのかといった来歴がほとんど不明です。

西洋美術では、誰が描いたのか、誰の依頼で作られたのか、そして誰の手に渡ってどのように現在の所有者のものとなったのか、という来歴が比較的明らかな作品が多いです。ミケランジェロの「最後の審判」ではローマ教皇クレメンス7世によって依頼され、ミケランジェロは約5年の歳月をかけてほぼ一人で描き上げたことが分かっており、その裸体表現が問題となり過去に腰布が描き加えられたことなど多くの記録が残っています。

しかし「鳥獣戯画」の場合、その来歴がほとんど分かっていません。京都の高山寺にどのように伝えられたのか、制作時期も異なる絵の断片を誰が4つの巻にまとめたのかなど具体的なことは謎だらけです。

それは芸術品が芸術家の苦悩と創造性の結晶から生み出された唯一無二の存在と考える現代の感覚からは程遠いものと感じられるかもしれません。「鳥獣戯画」には複数の絵師がかかわっていますが、彼らが「鳥獣戯画」という絵巻物を制作したという感覚はなかったでしょう。しかし「鳥獣戯画」には数百年という長い年月をかけ人から人へと大切に伝承されてきたという歴史があり、連綿と継承されてきたその歴史ゆえ国宝に指定されています。そのような歴史的価値も「鳥獣戯画」が愛される理由の一つといえます。

まとめ

「鳥獣戯画」は日本が誇る国宝で、巧みな筆さばきとユーモアあふれるキャラクターが人気度の秘密です。また、白描画や絵巻物の構成により漫画やアニメのルーツとも呼ばれ、そのモノクロの世界とシンプルな画面構成は日本の引き算の文化を象徴し日本の美意識が反映されています。作者も来歴も制作意図も不明な絵巻ですが、数百年と受け継がれてきたその存在価値のため国宝に指定され多くの人々を魅了しています。


【参考文献】
鳥獣戯画 決定版: 「絵の原点」にふれる (別冊太陽 日本のこころ 288)(平凡社)
もっと知りたい鳥獣戯画 (アート・ビギナーズ・コレクション)(東京美術)
決定版 鳥獣戯画のすべて(宝島社)
謎解き 鳥獣戯画 -とんぼの本-(新潮社)
鳥獣戯画のヒミツ(淡交社)

鳥獣戯画をもっと詳しく知りたい方はこちら


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