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奇想の絵師、長沢芦雪のはちゃめちゃな生涯。

長沢芦雪という絵師をご存知だろうか。美術史家の辻惟雄が「奇想の系譜」で紹介して、近年評価が高まっている絵師だ。その大胆な構図や驚くべき表現法は「奇想天外」そのものである。そんな芦雪の生涯を追ってみる。

長沢芦雪「白象黒牛図屏風(部分)」

生い立ちと画業のスタート

長沢芦雪は1754年、丹羽国篠山(現在の兵庫県中東部)の貧しい下級武士の家に生まれる。若くして京都画壇で力を持っていた円山応挙のアトリエに通い絵の手ほどきを受け、そこで才能を発揮し20代後半で応挙の高弟と認められるまでになる。

南紀串本でのびのびと制作に励む

芦雪の転機となったのが1786年に南紀串本にある無量寺の僧が南紀にある寺の襖絵を依頼したことにある。応挙が対応できないということで芦雪に白羽の矢が立ったのだが、そこで芦雪はのびのびと制作に励むことができたのだ。

その年の暮れから翌年の春にかけて無量寺をはじめ、成就寺、草堂寺、田辺の高山寺などで多くの襖絵や屏風を描いていく。

「虎図襖」

長沢芦雪「虎図襖」

無量寺では「虎図襖」を描いている。これは重要文化財にもなっている芦雪の代表作だが、全部で6枚ある襖の3枚を使って迫力いっぱいに虎を描いている。驚くべきはその大きさだ。襖の縦いっぱいに描き、優に人の背丈を超えている。正面から睨み付けるその表情は迫力満点だ。

この「虎図襖」にはちょっとした仕掛けがある。この襖の裏には芦雪作の「薔薇図」があるのだが、そこには水辺で憩う3匹の猫が描かれている。その内の一匹は水辺から水面近くの鮎を狙っているのだ。

つまり「虎図襖」の虎は裏面の猫で、鮎が見つめる視線の先にある猫は、人間が襖を見つめる視線の先にある虎と同じである、という凝った仕掛けなのだ。

自由奔放な性格

芦雪に関しては様々な言い伝えがあるが、その内の一つに「3度破門された」というのがある。さすがに3度は言い過ぎではないかと思うが、1回は間違いなくあるらしい。

師匠である応挙に描いてもらった手本をそのまま持って行くと「これは良くない」と手直しされ、そこで自分で清書して持って行ったら「これは良い」と言われたという。この事実が判明して破門されたというのだ。

応挙と芦雪はその後、一緒の仕事をしていることなどを総合的に判断すると、破門しても応挙は芦雪の才能を十分に認めていたということだろう。

「白象黒牛図屏風」

長沢芦雪「白象黒牛図屏風」

この他、アメリカ人で日本美術コレクターでもあるジョー・プライス氏の所蔵である「白象黒牛図屏風」でも奇をてらった試みをしている。白象と黒牛をそれぞれの屏風に配置しているのだが、白象には黒いカラス、黒牛には白犬という白と黒の対比が面白い。また、象や牛の描写には円山派の卓越した写実の技術が生きており、見るものを惹きつける。

ゆるキャラに通ずるキャラクター造形

長沢芦雪「一笑図」

芦雪は数々の動物を描いているが、中でも愛くるしい動物が多いことでも知られる。「白象黒象図屏風」でもお茶目な白い子犬が登場する。また「一笑図」でも自由奔放に犬を描いている。ここまでくると200年以上前にゆるキャラを誕生させていたといえる。

芦雪は意外なほど早くに亡くなっている。一説には毒殺説もあるが、いずれにせよ45歳という若さでこの世を去った。奇想の絵師としてもっと多くの作品を見てみたかったが、残念だ。

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