新型コロナウイルスの影響で開催延期となっていた「奇才 江戸絵画の冒険者たち」が6月2日から開催されています。
この展覧会は、近年特に評価が上がっている江戸時代の美術を、北は北海道から南は九州まで、総勢35名の絵師の作品によって俯瞰しようとするものです。
伊藤若冲、曾我蕭白、歌川国芳など個性あふれる絵師たちの作品は、時代の先をゆく斬新さを持ち、現代でもその新しさは色褪せていません。
今回はその中から特に、これだけは見てほしいという白隠の絵についてその魅力をお伝えしたいと思います。
「自由奔放」な白隠ワールド
白隠の絵は一言でいえば「自由奔放」。見てわかると思いますが、決して上手い絵ではないのですが、上手く描こうとか失敗したらどうしようという迷いがない。何とも潔いのです。例えていうなら「子供みたいな絵」といえるでしょう。
臨済禅の中興の祖
それもそのはずで、白隠はお坊さんだったのです。お坊さんの中でも禅僧といって「禅」の修行に励む僧でした。静岡の沼津市に生まれた白隠は12歳で出家をし、美濃、越前、備後、越後など全国で修行を重ね、34歳で松蔭寺の住職となっています。とても熱心に修行に励み、多くの僧を育てたということで、臨済禅の中興の祖ともいわれています。
美術史では埋もれた存在だった
白隠は臨済禅の中興の祖としてその存在は知られていましたが、それは歴史の中においてのことで、美術史に限っては、多くの絵を白隠は残していますが、それらが取り上げられることはほとんどありませんでした。しかし、近年「禅画」というジャンルが注目を集め、白隠の何物にも囚われない自由奔放な表現は美術史的に評価されているのです。
後世の絵師に与えた影響力
では、具体的に白隠のどの様な表現が評価されているのか。一つは濃墨で引かれた力強い線にあります。この辺の造形は曾我蕭白に影響を与えたといわれています。また、池大雅にも少なからぬ影響を与えたとみる専門家もいます。
さらに白隠には背景を墨で塗り潰した絵がありますが、それらは伊藤若冲の拓版画や奥村政信、鈴木春信の黒バックの版画へ影響を与えたとされています。
ユーモアもピカイチ
白隠は布袋を良く描いています。もともと中国の実在の人物がモデルの布袋ですが、日本では七福神の一人として人気を博しています。その様に親しまれた布袋を白隠は愛嬌たっぷりに描いています。禅画では画賛といって「画(絵)」と共に「賛(画に関連した詩や文章)」も一緒に描かれることが多くあります。
「布袋図」では禅の公案が記されています。「碧厳録」に出てくるもので「僧、趙州に問う『万法は一に帰す、一は何れの処にか帰す』(ある若い僧が、老僧の趙州に『すべてのものは一に帰すというが、ではその一はどこに行くのか』と質問した)への回答とされるもので、趙州は『青州に在って一領の布衫を作る、重さ七斤』(趙州は『青州にいた時、一領(一枚)の布衫(短い衣)を作ったが、その重さが七斤あった』)と答えたといいます。
何だこの問答は?と不思議に思われたかと思いますが、これが世に言う「禅問答」というもので、合理的な価値基準では決して理解できないやりとりなのです。
布袋の愛嬌たっぷり姿からは想像もつかないかも知れませんが、しっかりと禅の教義が描かれていて、白隠らしいユーモアが溢れています。
この他、仙崖や浦上玉堂など気になる絵師がたくさんいますので、ぜひ実際に展覧会に行ってみてはいかがでしょうか。
開催期間 2020年6月2日(火)~6月21日(日)
会場 江戸東京博物館
開館時間 9時30分~17時30分
休館日 毎週月曜日
お問合せ 東京都江戸東京博物館 TEL.03-3626-9974(代表)
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