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葛飾北斎「冨嶽三十六景」選りすぐりベスト10!

  • 2020年2月8日
  • 2020年6月29日
  • 浮世絵
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葛飾北斎は浮世絵界のスーパースターであり、世界に名前が通っている数少ない日本のアーティストでもある。そんな北斎が70歳を過ぎて世に出し、浮世絵風景画のジャンルを確立した「冨嶽三十六景」。刊行当初は36図で完結する予定だったが、好評だったため10図を追加して合計46図となった。

今回は、その46図の中から厳選した10図をご紹介したい。誰もが目にしたことのあるものから意外なものまで、これを見れば「冨嶽三十六景」がもっと楽しくなるだろう。

10.「本所立川」

立川とは東京、両国界隈にある小名木(おなぎ)川に並行する竪川のこと。この近くには材木屋が多くあり、立てかけられた木材やそれを加工する職人が生き生きと描かれている。富士は画面右に控えめに存在する。この付近には北斎の生家があり、子供の頃から見慣れた風景だったのだろう。

10.「尾州不二見原」

葛飾北斎「尾州不二見原(冨嶽三十六景)」

愛知県名古屋市付近を描いたものだが、決してこの辺りが大樽造りが有名なわけではない。この図では北斎の構図の妙が生きている。職人が作る桶は丸い形をしており、田んぼの奥にはそのフレームの中から富士を望むことができる。丸い桶と三角の富士が対比的で面白い。

9.「諸人登山」

葛飾北斎「諸人登山(冨嶽三十六景)」

いきなり富士はどこだ?と面食らったかもしれないが、実はこの絵全体が富士なのだ。富士の山頂付近で、尾根を巡るものもあれば、疲れ果てて座り込むものもある。休憩中の岩室は満員である。ゴツゴツとした富士の岩場を背景に、富士講の修行の様子が臨場感いっぱいに描かれている。

8.「甲州三島越」

葛飾北斎「甲州三島越(冨嶽三十六景)」

本図は山梨県と静岡県の県境、籠坂峠から富士を望む場面を描いている。画面中央の巨木が富士の稜線を真っ二つに分け、富士と巨木が同じ存在感で描かれている。旅人たちが巨木の大きさに驚いている姿が滑稽でもある。

7.「江都駿河町三井見世略図」

葛飾北斎「江都駿河町三井見世略図(冨嶽三十六景)」

三井見世略図の三井とは「三井越後屋呉服店」のことで、現在の「三越」のことである。当時はそこから富士が見えたのだろう。屋根の三角形と富士の三角形、それに凧の糸と尾が作る三角形など相似のモチーフを随所に配置した見事な構図である。正月に売り出した版画とされ寿文字の凧やトンビ凧などめでたい題材が多い。

6.「甲州石班沢(こうしゅうかじかざわ)」

葛飾北斎「甲州石班沢(冨嶽三十六景)」

山梨県に位置する石斑沢は釜無川と笛吹川が合流する急流地で、激しい波飛沫が画面下を覆う。波はやがて横線の穏やかなものになり富士の麓に消えていく。岩場と波飛沫は相似形として何度も繰り返される。そして漁師が投げた網の糸と富士の稜線は同じく相似形で呼応する。

5.「駿州江尻」

葛飾北斎「駿州江尻(冨嶽三十六景)」

江尻は清水港の近くにある。急に吹いた風に女性の懐から懐紙が舞い飛ぶ。蓑笠が飛ばされた旅人は慌ててそれを追いかける。静かな富士と風に翻弄される人間の対比が面白い。

4.「遠江山中」

葛飾北斎「遠江山中(冨嶽三十六景)」

この付近は静岡県西部で杉や檜の産地であった。大工が正確にのこぎりを使い角材を切っていく。その職人の三角の姿、足場の三角など富士を連想させる構図が何度も繰り返されている。

3.「山下白雨」

葛飾北斎「山下白雨(冨嶽三十六景)」

白雨とは夏の夕立のことで、山の上半分は晴れ、下半分が雨の様子を描いている。富士の天気は変わりやすく、巨大な稲妻が漆黒の裾野に稲光りする。頂上と麓でまるで違う世界が広がっている。

2.「凱風快晴」

葛飾北斎「凱風快晴(冨嶽三十六景)」

「凱風快晴」通称「赤富士」は「冨嶽三十六景」の中でもトップクラスの知名度を誇り、北斎といえばこの赤富士を思い浮かべる人も多いと思う。凱風とは南風のことで、青空にたなびくいわし雲が初秋の空気感を伝える。空の藍色や富士の赤など、グラデーションで配色し画面全体に深みを与えている。

1.「神奈川沖浪裏」

葛飾北斎「神奈川沖浪裏(冨嶽三十六景)」

「冨嶽三十六景」の中で一番有名な図で、北斎の代名詞ともなっている作品だ。海外でも評価が高く「The Great Wave」として多くの美術館に収蔵されている。活力ある大波と不動の富士の対比。自然に翻弄される人間の姿が健気である。これまで何度も相似の繰り返しを多用してきた北斎だが、この図でも手前の波と富士、大波の弧は、かぎ爪のような小波の弧とも相似形をなしている。波の向かう先に富士を配置するなど構図の安定感、独創性、奇抜性は他の浮世絵師の追随を許さない。

如何だったろうか。北斎の特徴はとにかくデザインが凝っているところだろう。相似形の繰り返しや、富士への視線の誘導など細かなところにも配慮した構図が見るものを魅了する。

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