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浮世絵が出来上がるまで!その仕組みを解説。

  • 2020年3月13日
  • 2020年6月29日
  • 浮世絵
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墨田北斎美術館「錦絵ができるまで(版木展示)」

浮世絵は決して一人の絵師によって制作されるものではなく、複数の職人が携わる分業体制で成り立っている。絵師のほか、彫師や摺師、そしてそれらをマネージメントする版元のいずれが欠けても成り立たない。そんな分業体制の浮世絵が出来るまでを解説する。

版元による企画から全ては始まる。

まず、総合プロデューサーである版元が作品を企画し、予算にあった絵師や彫師に依頼することから全ては始まる。実力のある絵師からもアイディアや企画が持ち込まれることもあったが、多くは版元からスタートした。

絵師の出番

注文を受けた絵師は画稿を描き、それを薄紙で写し取り版下絵を制作する。その版下絵では一本一本の線が明瞭に描かれるが、細かいところは彫師や弟子に任せることもあった。

完成した版下絵は検閲にかけられる。検閲を行う機関は時代によって異なり、地本問屋仲間や町名主などが主に担当し、検閲を通ると改印(あらためいん)と呼ばれる印が押された。

彫師による作業でオリジナルの下絵は失われる。

検閲を通ると彫師は版下絵を基に板刻してゆく。この板には硬くて木質の素直な山桜が使われた。ここで大事なポイントは彫師は彫る際に版下絵を裏返しにして版木に貼り、紙の裏面から下線を残すように彫り進めていくことだ。版下絵を表のまま彫ってしまうと摺ったときに絵が反転してしまうので裏返しにする必要がある。よって、版下絵はこの時点で消滅してしまう。それ故、絵師の描いた原画は残らないのだ。

絵師による色味の指定

彫師が手がけた輪郭線のみの版を「主版(おもはん)」と呼び、左の角にはL字形のかぎ見当が付けられる。主版が完成すると十数枚ほど墨で摺られ絵師によるチェックが行われる。絵師は一色ごとに部位と色を指定して再び彫師に渡す。彫師は色指定された摺りを版下にして、指定箇所を残して彫り、各色の色版を完成させる。

墨田北斎美術館「錦絵の摺りの工程」

摺師の出番

主版、色版は摺師に渡り、ようやく摺り上げられることになる。使われる紙は、重ね摺りにも耐えられる強さを持ち、且つ柔らかな紙質で表面が滑らかな「柾(まさ)」と呼ばれる紙が使われた。その紙には絵の具のにじみを防止するため、どうさ(膠にみょうばんを混ぜたもの)が引かれ、紙と板に水分が与えられ摺られていく。摺師は板のずれや彫り残しのチェックを行い、見本摺りで色の具合などを版元や絵師と確認してから本格的な摺り作業に入っていった。

版元に納められて販売が開始される。

葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」

完成された浮世絵は版元に納められ、そこから出版となる。このように浮世絵ができるまでには、版元、絵師、彫師、摺師と多くの人の手が加わっていることが分かる。もちろん絵師によるクリエイティブな構図やモチーフ選びがヒットの鍵を握るのだが、それを成立させるための彫師や摺師といった確かな技術がなければ成り立たない。そして、そもそもそれらをまとめる版元がいなければ出版もできないというのが浮世絵の仕組みなのだ。


浮世絵の制作工程を箇条書きするとこんな感じだ。
1. 版元による制作依頼
2. 絵師が画稿を作成し、版下絵が作られる
3. 版下絵は検閲に回される。
4. 検閲が通れば版下絵は彫師に渡り、主版板刻、校合摺、色版板刻と進められる。
5. 版木一式は彫師から版元、そして版元から摺師へと渡される。そこで板調べ、見本摺り、本摺りと各工程を経て完成される。
6. 完成された作品は版元に納められ、版元より晴れて販売される。

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